■03月08日(土)
昨夜のこと。兄が家から帰ってきて、親よりも先にご飯食べようかということになり、二人で晩飯を作ることになった。
兄は帰ってきて間もない格好。コートをさっと部屋に脱ぎ捨て、何をしてきたのか短髪ながら髪が乱れていた。そんな容姿の兄と、何を食べるか相談し、そういえば昨日食べた鍋の残りがあったことに気付き、それで雑炊を作ることにした。
冷蔵庫から卵を取り出し、器に卵をいくつか割りそれをかき混ぜていたのを横目に見ながらその辺をチラチラ見ていた時だった。兄のすぐ後ろの床に何か見慣れているようで見慣れないものが落ちていた。
こ、これはッ……!!
女性を妊娠させないために使う道ッ……!!
色は見慣れないものだけど、四角い形状をした袋の中にある丸い何かが入っていることを強調するように膨らんでいる。これはコンドーなんとかそのものではないか!!??
ここは台所。料理に使うものでこういった形のものは見たことがない。であるならば、兄がポケットに忍ばせていてそれが床にポトンと落ちてしまったという見方が正しいだろう。それに出かけるときに使うもの。つまりこれはコンドーなんとか!!
ほぼコンドーなんとかだということが確定。彼女いないはずなのになんでこんなの持ってるんだろう……、遊びでこれを使える女性でもいるのか……?などと頭のなかを巡らせているときにも兄は僕に雑炊のこととか卵のこととかを楽しそうに話している。こやつめ、後ろにとんでもないものが落ちているというのに、なんて無邪気そうな顔をしているんだ。コンドーなんとかを使ってるときの顔が本当の兄なんだと思うとその顔は偽物にしか感じなかった。
そんな無邪気そうな顔をしている兄のために、なんとか人としての形を保たせてあげたいなと思った僕はなんとかこれを僕にばれないような形で拾わせてあげたいと思った。でも兄が床に落ちているコンドーなんとかに気付く確率は低そう。なにせ後ろに落ちているわけだから。背後の、しかも床にあるものなんか気付けない。でも、なんとかチャンスをあげようと思ってよその方向を向いたり違うところに歩いたりスマホ見たりいろんなことをした。でも兄は一切それを拾うことなく料理に夢中だった。そんなに卵を鍋の中に入れるのが楽しいのか。さっきまで女の中に入れて楽しんでたくせに。
結局、僕はほとんど料理することなく調味料とか器とか出すだけしかしなかったが料理は早々に完成。かなり美味そうに仕上がった。よーし、これを器によそうからその間に兄に拾ってもらいたい…!と思い器によそっていたが兄はその様子を見ては「もうちょっと食べたら?少なくない?」などと言い出す始末。そんなことより拾えや。
よそい終わり、それぞれの部屋に戻るだけだった時。兄が後ろを振り向き、コンドーなんとかが落ちていることに気付いた。
これで僕は目をそむければよかったのだが、気になっていたのは間違いなかったので自分に嘘はつくまいとガン見した。
しかし、兄はそれを見て首をかしげるようにして、それを台所のそばに置いてある棚に置いた。
……えぇ!?そこ置くの!?親が帰ってきたらバレるよ?僕の不安は最高潮。それだけは絶対にいけない。僕にガン見されたからとはいえ、それを部屋に持ち帰らないのは完全に失策。「なんだこれ、俺のじゃねえや」などとかっこつけてる場合じゃないんだよ!?僕にバレたとしても黙ってるから持ち帰れよ!そう思いつつも、僕もなんだこれみたいな顔してそのまま部屋に戻った。兄も部屋に戻った。
兄が丹精こめて作った雑炊を食べてるときに、もう一度ちゃんとあのコンドーなんとかを確認しようと思った。一体どんなコンドーなんとかを兄は使っているのか……。袋から取り出すのはしなくとも、何も文字が見えなかったわけだから表を向けて名前だけでも確認しておきたい。そんなわけで、行儀が悪いのを承知で、兄が台所に来ないうちに確認することにした。
台所に戻り、コンドーなんとかがあることを確かめた。そしてそれを表に向けた。
パ ー シ ャ ル デ ン ト 。
入 れ 歯 洗 浄 剤 。
兄はコンドーなんとかなど持っていっておらず、もともと台所に落ちてたものだった。それもパーシャルデント。そういえば親も入れ歯を洗うような年齢になっていた。そうか、親もそんな歳か……などと感慨深く思いつつ、入れ歯を洗う親を想像しながら雑炊を食べた。美味しくなかった。